研究内容

李正花

FAPグループ

家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、常染色体優性遺伝病であり、末梢神経及び自律神経障害を主徴とする疾患である。平均発症年齢は、30代から40代であり、いったん発症すると、進行性で致命的となり、10−20年後に死亡する。FAPは、トランスサイレチン(TTR)遺伝子の点突然変異により生じ、変異タンパクがアミロイドとして種々の組織、末梢神経、心臓、腎臓などに沈着する。ヒトTTR遺伝子は、約7kbの遺伝子で、4つのエクソンと3つのイントロンを持つ。主に肝臓、脳の脈絡叢、目の網膜等で発現し、血液、脳脊髄液、硝子体にそれぞれ分泌される。4つの同一のサブユニットからなる55 kDaの4量体を形成し、血中ではサイロキシンやレチノール結合蛋白の運搬体として働く。これまで110以上のアミノ酸変異が見つかっているが、そのうち90の変異はアミロイドーシスと関連している。アミロイド沈着のステップは、以下のように要約されている(図参照)。(1)肝臓におけるTTRの発現、(2)4量体TTRの形成と血中への分泌、(3)単量体への解離、(4)単量体の修飾、(5)単量体の凝集、(6)アミロイド線維の沈着と血清アミロイドP成分の付着。

TTR関連アミロイドーシスの病因・病態を解析する目的で、これまで多数のトランスジェニック/ノックアウトマウス/ノックインマウスを作製してきた。これらを用いて以下のことを明らかにしている。(1)ヒトTTR遺伝子の上流6kbに、組織特異的・時期特異的発現に必要なcis-elementが含まれている;(2)ヒトTTRの血中レベルは生後4週で成体レベルに達するが、アミロイド沈着は生後6ヶ月以降である;(3)SPF環境ではアミロイド沈着は見られず、環境要因がその発症に関与する(6);(4)10番目のCysが立体構造の変化に関与し、アミロイド沈着に重要である;(5)血清アミロイドP成分は、アミロイド沈着の引金の役割を果たしていない;(6) マウスTTR分子は、ヒトーマウスヘテロ4量体の安定化に関与している(5); (7) ヒトTTRホモ4量体は、マウスRBP4との親和性が低い(5)

以上の事実から、TTRおよびRBP遺伝子座ともにヒト化されたマウスモデルの作製が、FAPの病態解析や新しい治療法の開発に重要であると考えられた。そこで、まずネオマイシン耐性遺伝子の両端にlox71とlox66を含むターゲッティングベクターを導入し、マウスTtr遺伝子完全破壊マウスを作製した。ついで、lox66-human TTR cDNA-loxPが含む置換ベクターとCre発現ベクターにより、部位特異的組換えを行い、マウスTtr遺伝子座が正常ヒトTTR cDNA (Val 30)および変異ヒトTTR cDNA (Met 30)ヒト化したマウスを作製した。このマウスでは、ヒトTTR cDNAが、マウスTtr遺伝子と量的にも質的にもほぼ同様のパターンで発現した(5)。さらに、Rbp遺伝子座をヒト化したマウスを作製し、交配により、TtrおよびRbp4遺伝子座ともヒト化したマウスを作製した。現在、ヒト化マウスを用いて、製薬企業と共同で、薬剤のアミロイド沈着防止効果を検討しているところである。

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